交通事故で受傷し、一定期間治療してもなお症状が残ってしまった場合、残ってしまった症状については、後遺障害等級の認定を受け、治療費や入通院慰謝料とは別に、後遺障害による逸失利益や後遺障害慰謝料として、損害賠償を受けることになります。
その損害賠償額を決定するのに、後遺障害等級が適正に認定されるかどうかが非常に重要なポイントとなります。そのため、このページでは示談で重要なポイントに絞って、後遺障害の等級について解説していきます。
後遺障害とは?
「後遺症」というのは残ってしまった症状そのもののことですが、「後遺障害」という場合は等級が認定され、賠償の対象となりうるとされた障害のことを言います。
図で表すと、次のようになります。「後に残る症状=後遺症」の中で、等級として認定されたものが「後遺障害」というイメージとらえていただくと、わかりやすいかと思います。
後遺障害等級認定のしくみは、残ってしまった後遺症のうち、下で説明する「後遺障害の定義」に合致するもの(=後遺障害)を、損害賠償との関係でどの程度のものなのか分類する(=等級認定)ことによって、示談や訴訟において公平かつ迅速に処理するために考えられたものです。
後遺障害の定義
まず「後遺障害」ですが、これは下記のように定義されています。
- 交通事故によって受傷した精神的・肉体的な傷害(ケガ)が、
- 将来においても回復の見込めない状態となり、(症状固定)
- 交通事故とその症状固定状態との間に相当因果関係(確かな関連性・整合性)が認められ、
- その存在が医学的に認められる(証明できる、説明できる)もので、
- 労働能力の喪失を伴うもので、
- その程度が自賠法施行令の等級に該当するもの
後遺症が上のように定義されて(実務上)後遺障害等級が認定されたら、下の図のように症状固定をさかいに区別します。
事故発生から症状固定までに発生した損害を「傷害部分」、症状固定後に残存した損害を「後遺障害部分」として、損害賠償の対象としています。
損害賠償の対象となるのは等級が認定された後遺障害のみ
ここで注意が必要なのは、後遺障害等級認定手続きによって後遺障害等級が認定された「後遺障害」のみが賠償の対象となる点です。
自賠責上の後遺障害等級認定が非該当でも、訴訟等で後遺障害としての賠償が認められた事例はありますが、なかなか認められないのが実態です。
少なくとも自賠責保険においては、いくら症状が残っても、等級認定されない限り、賠償の対象とはなりません。
つまり、後遺症が残っている場合、適正な賠償を受けるには適正な後遺障害等級認定が前提となるわけです。
部位別後遺障害等級認定表
後遺障害は後遺症が残存した部位によって分類されており、より具体的には以下の10の系列があります。
(クリックするとそれぞれの系列のページを新しいタブで開きます)
たとえば、むち打ち後の首の痛みや腰の痛み、手足のしびれなどが残った方の場合、「神経系統の機能又は精神」の系列の「局部の神経系統の障害」に該当するかどうかが手続きによって認定されます。
- 眼(眼球及びまぶた)
- 耳(内耳等及び耳介)
- 鼻
- 口
- 神経系統の機能又は精神
- 頭部、顔面部、頸部(上肢及び下肢の醜状を含む)
- 胸腹部臓器の障害
- せき柱及びその他の体幹骨
- 上肢(上肢及び手指)
- 下肢(下肢及び足指)
等級認定での「併合」とは
ところで、交通事故によって2ヶ所以上を受傷され、後遺症が残った場合には等級認定手続き上はどのような扱いになるのでしょうか?
系列の異なる障害が2つ以上ある場合に、重い方の等級を繰り上げて、「併合」という複数の障害の等級とする取り扱いになっています。
複数の障害の等級とするとは、下表のように、系列の異なる障害が2以上ある場合に、重い方の等級を繰り上げることを言います。
1〜5級 | 6〜8級 | 9〜13級 | 14級 | ||
次に 重い等級 | 1〜5級 | 重い等級 + 3級 | |||
6〜8級 | 重い等級 + 2級 | 重い等級 + 2級 | |||
9〜13級 | 重い等級 + 1級 | 重い等級 + 1級 | 重い等級 + 1級 | ||
14級 | 重い等級 =等級に変更なし | 重い等級 =等級に変更なし | 重い等級 =等級に変更なし | 14級 =等級に変更なし |
併合の例
図だけだと分かりにくいと思いますので、より具体的な併合の例を挙げます。
- 鎖骨を骨折し、鎖骨の変形と肩の可動域制限が残った場合、鎖骨の変形について12級5号、肩の可動域制限について第12級6号が認定された場合、1級繰り上がって併合11級となります。
- 首と腰の痛みでそれぞれ14級9号が認定された場合、14級が複数あっても等級に変更なしとされていますので、併合14級となります。
等級認定の「準用」とは
後遺障害等級表に該当するものがない障害については、その障害の程度に応じ、後遺障害等級表に掲げる障害に準じて等級を定めることになります。これを「準用」と言います。
「準用」がされるケースには次の2つがあります。
- ある障害が、後遺障害等級表上のどの障害の系列にも属さない場合
- 後遺障害等級表上に、その属する障害の系列はあるが、該当する障害がない場合
等級認定の「加重」とは
「加重」とは既に後遺障害等級の認定を受けている部位に、新たな事故により障害が加わった結果、後遺障害等級表上、現存する障害が既存の障害より重たくなった場合を言います。
新たな交通事故以外の理由によって障害の程度が重たくなっても「加重」には該当しません。
また、新たな交通事故によって同一部位に障害が加わったとしても、その結果、既存の等級より重い等級が認定されない限り、「加重」には該当せず、追加の支払いを受けることはできません。
加重でよく問題になる例は次の通りです。
- 交通事故発生より前に、首の痛みで治療歴があった場合で、交通事故によりさらに首の痛みがひどくなった場合、事故前の首の痛み(既往症)が14級9号相当だと判断された場合、加重とは判断されず、本件事故による追加の後遺障害部分の支払いはありません。
- 首の痛みで14級9号が認定され、その後新たな交通事故でさらに首を痛めた場合で、もし12級13号が認定されると加重として12級の限度額から14級の限度額を引いた金額が支払われることになります。
後遺障害等級に関するまとめ
「後遺障害」とは、一定期間治療しても残ってしまった後遺症のうち、等級が認定され、賠償の対象となりうるとされた障害のことでした。
後遺障害等級認定手続きによって、後遺障害等級が認定された「後遺障害」のみが損害賠償の対象となるしくみですので、後遺症が残っている場合、適正な賠償を受けるには適正な後遺障害等級の認定を受けることが前提となります。
- 後遺障害等級の認定について疑問がある
- 後遺障害等級認定手続きに不安がある
- 症状固定と言われたがよくわらない
- 後遺障害等級の認定が出たが結果に納得がいかない
以上のように後遺障害等級についてお悩みや疑問などございましたら、お気軽に弁護士による無料相談をご利用ください。