
弊所には、相手方任意保険会社から自賠責保険の支払基準またはそれに近い金額で任意保険会社から損害賠償額の提示を受けた被害者の方から、
「自賠責保険の支払基準とはどんなものか?」
「任意保険の基準との違いは何か?」
というご相談が多く寄せられています。
ここでは、自賠責保険の支払基準について簡単にご説明いたします。
目次
自賠責基準は最低基準
自賠責保険の支払基準(以下「自賠責基準」)は以下のように損害別に定められています。
交通事故の損害を算定する基準は①自賠責基準、②任意基準、③裁判基準とあります。同じ損害でも、どの基準で計算するかにより賠償額(保険金)が異なります。
①自賠責基準 < ②任意基準 < ③裁判基準
①自賠責保険は最低限の補償を確保するために設けられた基準です。
③の裁判基準は、弁護士に依頼して、示談交渉を行う際や裁判に至った際に用いられる基準で、①自賠責基準や②任意基準よりその額が大幅に高く、適正なものになります。
詳しくは、下記記事も合わせてご参照ください。
何が請求できるの?
傷害(ケガ)による損害
傷害(ケガ)による損害とは、入通院治療が終了するまでに生じる治療や通院、休業等に関するもので、通常は治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料などが挙げられます。
費目 | 定義・内容 | 自賠責基準 |
---|---|---|
治療費 | 応急手当費・、診察料、 入院料、投薬料、手術料等の費用等 | 必要かつ妥当な額 |
看護費 | 入院中の看護料 12歳以下の子どもに近親者が付き添った場合 |
1日につき4,100円 |
自宅看護料又は通院看護料 12歳以下の子どもに近親者が付き添った場合 医師が看護の必要性を認めた場合 |
必要かつ妥当な実費 近親者の場合、1日につき2,050円 |
|
通院交通費 | 通院に要した交通費 | 必要かつ妥当な額 |
諸雑費 | 入院中の諸雑費 | 入院1日につき、1,100円 |
義肢等の費用 | 義肢、歯科補鉄、義眼、補聴器、松葉杖などの費用 | 医師が認めた必要かつ妥当な実費 |
診断書等の費用 | 診断書、診療報酬明細書などの発行費用 | 必要かつ妥当な額 |
文書料 | 交通事故証明書、印鑑証明等の費用 | 必要かつ妥当な額 |
休業損害 | 事故による傷害のために発生した収入の減少 | 1日につき5,700〜19,000円 |
慰謝料 | 精神的・肉体的な苦痛に対する補償 | 入通院1日につき4200円 (【実治療日数×2】と【治療期間】のどちらか少ない方で計算) |
後遺障害による損害
後遺障害による損害とは、症状固定となり入通院治療が一旦終了した後に残存する後遺障害に関するもので、通常はその等級認定に応じて、逸失利益、後遺障害慰謝料などが挙げられます。
損害 | 定義・内容 |
---|---|
逸失利益 | 身体に障害を残り、労働能力が低下したために、 将来に渡り発生する収入の減少 |
後遺障害慰謝料 | 交通事故による精神的・肉体的苦痛に対する補償 |
後遺障害の逸失利益
逸失利益とは、後遺障害が残ったために労働能力を喪失したために発生した減収分のことです。
交通事故に遭わなければ本来もらえたはずの収入から逸失した(なくなってしまった)利益と言い換えることもできます。
1.計算式
= 基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入額 | 計算の基礎となる年収額のことです。 |
---|---|
労働能力喪失率 | 後遺障害によって失われる労働能力の割合のことです。等級ごとに定められています。 |
労働能力喪失期間 | 後遺障害によって労働能力が失われる期間のことです。通常67歳までで計算します。※むち打ち症の場合、12級で10年以下、14級で5年以下に制限される例が多く見られます。 |
ライプニッツ係数 | 将来の分まで、一度にまとめて賠償金額を受け取ることにより発生する利息分(法定利息5%)を差し引いた係数 |
2.基礎収入
自賠責基準 |
---|
有職者原則:事故前一年間の収入額と賃金センサス年齢別平均年収額のいずれか高い額 |
幼児・児童・生徒・学生・家事従事者賃金センサスの全年齢平均年収額。ただし、58歳以上の者で年齢別平均年収額が全年齢平均年収額を下回る場合、年齢別平均年収額 |
その他働く意思と能力を有する者賃金センサスの年齢別平均年収額。ただし、全年齢平均年収額を上限とする。 |
※賃金センサスとは厚生労働省の賃金構造基本統計調査のことで、性別、年齢別、学歴別の年収額のめやすとして用います。
3.労働能力喪失率及び後遺障害慰謝料
等級 | 支払限度額 | 慰謝料 | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
介護1級 | 4,000万円 | 1,600万円 | 100% |
介護2級 | 3,000万円 | 1,163万円 | 100% |
等級 | 支払限度額 | 慰謝料 (自賠責基準) | 慰謝料 ( 裁判基準) | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|---|
第1級 | 3,000万円 | 1,100万円 | 2,800万円 | 100% |
第2級 | 2,590万円 | 958万円 | 2,370万円 | 100% |
第3級 | 2,219万円 | 829万円 | 1,990万円 | 100% |
第4級 | 1,889万円 | 712万円 | 1,670万円 | 92% |
第5級 | 1,574万円 | 599万円 | 1,400万円 | 79% |
第6級 | 1,296万円 | 498万円 | 1,180万円 | 67% |
第7級 | 1,051万円 | 409万円 | 1,000万円 | 56% |
第8級 | 819万円 | 324万円 | 830万円 | 45% |
第9級 | 616万円 | 245万円 | 690万円 | 35% |
第10級 | 461万円 | 187万円 | 550万円 | 27% |
第11級 | 331万円 | 135万円 | 420万円 | 20% |
第12級 | 224万円 | 93万円 | 290万円 | 14% |
第13級 | 139万円 | 57万円 | 180万円 | 9% |
第14級 | 75万円 | 32万円 | 110万円 | 5% |
死亡による損害
死亡による損害は、交通事故に遭い被害者が亡くなってしまったことにより生じる本人及び遺族の損害のことを言い、通常は逸失利益や慰謝料などが挙げられます。
自賠責基準 | 裁判基準 | ||
---|---|---|---|
葬儀費 | 祭壇料や埋葬料、会葬礼状費など | 60万円(原則) | 150万円(原則) |
逸失利益 | 被害者が死亡しなければ将来得られたであろう収入額から、本人の生活費を控除して算定 | 下図参照 | |
慰謝料 | 本人 | 350万円 | |
遺族の慰謝料 (被害者の父母・配偶者・子) |
請求者1名 → 550万円 請求者2名 → 650万円 請求者3名 → 750万円 被害者に被扶養者がいる場合 → 200万円追加 |
一家の支柱 → 2800万円 母親、配偶者 → 2500万円 その他 → 2000万円〜2500万円※あくまでも目安です。 |
死亡の逸失利益
1.計算式
= 基礎収入額 × (1-本人の生活費) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
※就労可能年数とは、死亡時の年齢から67歳までの期間
基礎収入額 | 計算の基礎となる年収額のことです。 |
---|---|
生活費控除 | 死亡したことによって発生しなくなった生活費を基礎収入から差し引きます。 |
就労可能年数 | 死亡しなければ働いて収入を得ることができた期間のことです。通常67歳までで計算します。 |
ライプニッツ係数 | 将来の分まで、一度にまとめて賠償金額を受け取ることにより発生する利息分(法定利息5%)を差し引いた係数 |
2.基礎収入
自賠責基準 |
---|
有職者 原則:事故前一年間の収入額と死亡時の年齢の賃金センサス年齢別平均年収額のいずれか高い額 |
幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 賃金センサスの全年齢平均年収額。ただし、58歳以上の者で年齢別平均年収額が全年齢平均年収額を下回る場合、年齢別平均年収額年金等受給者 年間収入額 |
その他働く意思と能力を有する者 賃金センサスの年齢別平均年収額。ただし、全年齢平均年収額を上限とする。 |
3.生活費控除の基準
自賠責基準 |
---|
本人の生活費を控除
|
以上、傷害(ケガ)・後遺障害・死亡の場合の自賠責保険の支払基準についてご説明しました。
自賠責保険はあくまでも最低限の補償を行う保険ですので支払基準が画一的ですが、任意保険や裁判基準については交渉の余地があり、判断が難しく、相手方任意保険会社から提示された金額が適正なのか迷われる方もいらっしゃるかと思います。
弊所では交通事故でお悩みの方に対して、無料相談会を開催していますので、お困りの方はご活用ください。弁護士が親身に対応いたします。